仁王君発見
†Case22:仁王君発見†
言葉に妖力をこめる相手。
私はそれをじっ、と見ながら結界呪文を頭の中から引っ張り出す。
何で結界呪文は何百通りもあるんだろう…。
こういう危機的状況でぱっと分からないじゃないの。
『…ブン太、柳生君。悪いけど今から数秒間、自分自身は自分で守ってね』
「名前っ!お前また呪文分かんねーんだろっ!」
『だってあんな何千種類もあって尚且つ長い呪文覚えてられるわけないじゃん』
「必要なものだけでも覚えとけよ!!」
ぐちゃぐちゃと文句を言ってくるブン太。
自分自身で呪文覚えてから言えって以前言ったら100種類ぐらい覚えてきたから下手に言い返せないんだよね。
俺国語は得意だからって誇らしげに言ってきたブン太が憎いよって……。
以前ブン太は確か時間稼ぎ出来るものも覚えていたはずだ。
『ブン太!あんたこの間時間稼ぎの呪文覚えてたじゃない?』
私はブン太の方を向く事なく尋ねる。
「あ!俺じゃ使えねー結界呪文があるぜ!」
『それでいいから!』
ブン太の言葉をリピートするように唱える。
すると、私達三人をシャボン玉のようなものが包む。
よし、成功したみたいだ。
††††††††††
後はさっきしかけてものが発動するのを待つだけ……。
「結界呪文か。しかし俺の妖力があればお前らもろともぺしゃんこだ」
『五月蝿いわね。お喋りはいいから早く試して見ればいいじゃない』
「クソッ…!舐めやがって!!」
敵から放たれたのは妖力の塊だ。
ドンッ、と大きな衝撃が私の身体にかかる。
それでも耐えられない事はない。
だけど、一度で結界は破れるだろう。
「チッ。お前らは無傷か」
『ええ。だけど凄い威力ね』
でも、それで十分だ。
だってもう……。
「次はお前らだ」
『違う。次はあなた』
「何を馬鹿なこ、と…!な、何だ!?」
『私の霊力を爆弾にしたものを貴方の体に傘で傷を付けたところから入れたの。破壊力は抜群なんだけど、スイッチが入るまで時間が掛かるのよね。…さようなら』
悲鳴をあげながら倒れる巨体。
私は心の中で謝ると、ブン太と柳生君に声をかけた。
『さて、この穴に仁王君がいるわ』
そう言って私は敵が倒れた事によって出来た穴を指さす。
††††††††††
「ど、どうしてそんな事が分かるのですか?」
柳生君が穴を覗きながらそう尋ねてきた。
そりゃそうか。
だって穴の下は暗く、何も見えないもの。
『穴の下から仁王君の霊力を感じるから。…さて、行くよ』
戸惑いなく飛び降りた私についてくるブン太。
そして少し遅れて柳生君もついてくる。
「名前さまー!」
下に下りると、チェス盤のような床に扉のない部屋に来た。
光りは薄ぼんやりとしているが、上を見ると真っ暗で何も見えない。
『リューク。仁王君は?』
「ここにいるぜよ」
ポン、と私の頭を撫でたのは仁王君本人だった。
私は慌てて振り返り、仁王君の無事を確認する。
「仁王くん、無事ですか?」
「ああ、大丈夫じゃよ。ブンちゃんだけじゃなく柳生まで来たんか」
そう言う仁王君の顔は嬉しそうだった。
そして、柳生君の顔もまた嬉しそうだった。
『…ねえ仁王君。ここへは誰に連れて来られたの?』
そんな感動の再会に水を差すようで悪いけど、私は本題に入った。
††††††††††
仁王君は私の問い掛けに真剣な顔をして、口を開いた。
「紫音じゃ。名字は、紫音とどんな関係なんじゃ?あいつ、お前さんだけ居ればええって言うとった」
『紫音が…?紫音とはただの友達。しかも転校してきた時からの』
紫音がやった事よりも、私は紫音の言動が気になった。
私だけいればいいとはどういう事なんだろうか……?
私には紫音と深く関わった覚えは全くないんだけど。
「…名前が昔言ってた姉ちゃんじゃねーの?双子のさ」
ブン太がぽつりとそう言った。
確かに私には双子の姉がいる。
「そうかもしれんのう…。お前さんと紫音はどこと無く似てるぜよ」
仁王君はそう言ってまた私の頭を撫でると柔らかい笑みを浮かべた。
「今更じゃが、助けに来てくれてありがとな。やぎゅ、ブンちゃんも」
『仁王君…。巻き込んで、ごめんなさい』
「いいんじゃよ。お前さんが悪いわけじゃなか。それに、妹を守るのは兄の役目じゃろうて」
『ふふっ。頼もしいお兄ちゃんだね』
そう言うと、仁王君はくしゃっとした笑顔をした。
仁王君が本当のお兄ちゃんなら良かったのになって思うよ。
「こら、名前!にやにやしてねーで早く出口探せって!!」
「なんじゃブンちゃん。ヤキモチか?」
「そ、そんなんじゃねーよ!」
私は言い争う二人を視界の端に映し少し微笑むと、リュークを呼び出口探しを始めた。
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